人間は何か興味があるものはまず手に取って観察するのが普通ですよね。もちろん食べ物であれば口に

入れるでしょう。

 動物の場合、手に取って観察するというと犬猫さんなんかは特にそうですが手というものがなく、あまり

細かい動きの出来ない前足があるのみなので自然と口にくわえてみるという行動をとりやすいですね。

 これは食べられない物の場合でもよくこの行動は見受けられます。

 まあ食べ物でなければしばらくもてあそんで離すというのが自然でしょうが興味のある物などでは

じゃれ始めることも多々あります。

 そして興奮してきて思わずゴクンと飲み込んでしまう(嚥下してしまう)ということへ発展してしまう

ことがあるんです。

 あるいは食べ物の包装してあったビニールやプラスチック容器などはまだ食べ物の匂いが残っていて口に

入れてしまうなどもあるでしょう。

 食べ物の一部ですが非常に消化吸収がされにくいものなどもよく問題になります。桃、梅、プラムなどの

種やトウモロコシの芯などはその最たる物です。

 まあ盗み食いなどで食べてしまった食べ物は特別中毒などを引き起こす物でない限り何の問題にも

なりません。ちょっとした変化では一過性の嘔吐や下痢などがみとめられるくらいでしょう。

 しかしいつまでも消化吸収されない物が胃の中に停滞しているとしつこく吐き気があったり元気が

なくなったりといった症状がでます。

 さらにこの異物が胃の出口から腸へ移動し腸の内側のスペースに詰まってしまうと事態は深刻になって

きます。いわゆる「腸閉塞」という状態です。

 始めは食欲もあり食べるのですがすぐに嘔吐してしまうということが繰り返され衰弱していくという

経過をたどっていきます。

 対処としてはまずは何か変な物を食べたかもしれないとなったら様子を見ずにすぐ病院へ行った方が良い

です。かかりつけのところが休診であれば他の病院へ連れて行って下さい。

 なるべく腸閉塞へ進展させたくないのです。

 胃の中にまだ異物がある状態であれば吐かせる処置なども行えますしファイバースコープで取り出せる物であれば麻酔はかけなければなりませんがお腹を切らずに済みます。(当院ではファイバースコープの装備が

現在のところありませんので他院へ紹介させていただくという形をとらざるを得ません。ご了承下さい)

 やむをえず胃や腸を切開して異物を取り出すとなるとリスクも高くなりますし術後の管理も長くなって

しまう可能性が出てきます。

  

 異物を口に入れてしまった時に飼い主さんが見ていればこのような流れで診療していけるのですが、この

瞬間を飼い主さんが見ていなかった場合はなぜ状態が悪くなってしまったのか原因を突き止めなくては

ならないので、なかなか診断を下すまでに時間がかかり病状を悪化させてしまうということもあり得ます。

 腸閉塞が長引くと腸への血行も悪くなり、壊死してしまうこともあり最悪破れてしまうこともあります。

 こうなると腸の一部を摘出して壊死していない腸どうしをくっつけるというような手術の必要性が出て

きます。また腹膜炎を併発していることも多いため、回復まで時間を要することが多々あります。


 また小型犬などでは胃までいかなくても喉や食道に異物がつまってしまうこともあります(食道閉塞)。

砂肝や軟骨、ジャーキーなどのオヤツは詰まることが多いですね。

 食道と並行して気管が通っていますので詰まった物が気管も圧迫し呼吸を妨げることにもなりかね

ません。

 さらには物が詰まり食道を圧迫することで食道の内側が傷つき、その結果傷が治った後食道の壁が分厚く

なってしまうということもあります。

 これは食道の幅が狭まり、今後ちょっと大きめの物を食べたときにまた食道で詰まらせやすくなって

しまう構造になるということを意味します。


 性格的な要因も大きく影響してはいそうなので何でも口に入れてしまう子やいたずらでマットなどをよく

噛みちぎっているような子では床の上に物を置かなくしたり、マットを別の物にかえるなど未然に防げる

ものは実践していった方がいいでしょう。

 また飼い主さんが外出する時はケージに入る習慣付けをしておくことは非常にいい事だと思います。

 2度あることは3度あるではないですが誤嚥する子は繰り返すことが多いです。

 24時間監視するというのは現実的に不可能ではありますが意識的に対処する事で発生率は減らせるはず

です。


<誤嚥あれこれ>

 ここでは私が勤務医時代に遭遇した誤嚥の症例をいくつかご紹介したいと思います。


● あるダックスの子は家のお姉さんが好んで飲んでいるチョーヤ梅酒の中に入っている梅に目がない

 らしく、ゴミ箱の中の瓶から梅を食べてしまうそうです。

    5回程飲み込んでしまったと来院されて(それぞれ日は違います)4回は梅の種を吐かせる処置にて無事

   吐いたのですが、5回目はなかなか吐いてくれず、麻酔下でのファイバースコープにて取り出しました。


● 年明けに年賀ハガキを大量に食べたしまったというキャバリアの子は吐かせる処置をして吐こうとは

   するものの全く出ず、手術にて胃を開いて取り出しました。ハガキは水分を含んで原型をとどめて

   おらず大きな重い和紙のボールのようでした。


●  異物ではないのですが飼い主さんの留守中に保管していたドッグフードを包装を破いて大量に食べて

  しまい、身動きがとれないくらいにお腹がパンパンになってしまったダックスの子は元気もなく吐かせる

  処置をしました。


● これは時期を近くして2匹のダックスの子で遭遇したのですが3月あたりに横腹の傷で通院してもらっていたのですが、5日程消毒を行い皮膚の方も乾いてきたので治療完了としたところ5日程でまた傷が出て

  きたとの事で来院。

   傷口をチェックしていたらツンツンと指に尖った物が当たる感触があったので、鉗子でつかんで引いて

    みたところなんと6〜7cm程の竹串が出てきたんです!

  飼い主さんに確認したところ正月のおせちの魚の佃煮が刺さっていた串かも、とのこと。

  串を抜いた後も2匹とも元気でした・・・。


●  軍手(2枚丸めたもの)を飲んでしまったと来院したラブラドールの子は一応レントゲン検査で胃の出口

   付近に繊維の模様がみとめられ、もうすぐ腸に移動してしまう可能性を説明してまずファイバースコープを

  勧めたのですが飼い主さんはもう少し様子を見たいとの事でその日は帰られました。

  翌日、電話があり軍手を吐いたとの事。あぁ良かったと胸を撫で下ろしたのもつかの間、吐いたと同時に

   2ヶ月前に無くなっていたお父さんの靴下も吐いたとの事!

    この間元気で食欲もあったとの事でしたので胃の中をグルグル回っていたのかもしれません。

      事なきを得てホッとしました。


● アイスのガリガリ君の残り少ないものををおじいさんが棒を持って「ホイッ」と鼻の前に差し出したら

   棒ごとパクッと食べてしまったワンチャンもいましたね。

  同じようなケースでお父さんの夜の晩酌のときにはいつも傍でお座りの状態で待機しているワンチャンで

ほろ酔いのお父さんが焼き鳥の串ごとあげて食べてしまったっていうのもありました。

    いずれもファイバースコープにて摘出。


●  猫さんでは縫い針を飲んでしまい、喉に刺さってしまった子もいました。

    喉を触るとツンツンと針の端が皮膚を通して触れたので局所麻酔後、そこを少し切開して針を取り出し

   ました。


● ボタンを飲んでしまったかもしれないと来院したワンチャンでファイバースコープにて検査してみる事になり、お預かりしていざ麻酔をかけようかという時にお家から電話があり、ボタンが見つかった!との

    ことで事なきを得たなんてこともあります。


     とまあ人為的な原因のものも少なくはないので防ごうと思えば防げたはずなんです。

   いずれにせよ誤嚥が判明した時点で来院していただくということがなるべく処置を軽くするポイントでは 

  ないかと思います。

                                  

                                        2013年 10月


※上記は当院の方針であり、他院と異なる場合があります。ご了承下さい。

異物誤嚥(いぶつごえん)

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