高齢犬において最も罹患し易い病気の一つが心疾患です。
症状として
○ 朝、夜中や季節的に寒くなってきたときなどに咳き込む
○ 他には散歩へ行ってもすぐ座り込んでしまう。
○ 呼吸で「ヒューヒュー」音が聞こえる
などで異変に気づかれる飼い主様が多いようです。
更に進行していくと
○お腹が膨らんできた。と同時に水を多く飲む。
○興奮した時(お客さんが訪ねてきた時吠える、排便時に気張る等)にパタッと倒れて足を伸ばして
硬直した状態になり数秒後ムクッと起きる。
○呼吸が荒く、寝る体勢をとれない(落ち着き無くウロウロして眠れない)。
などの症状がみとめられます。
寝る体勢がとれないまでいくと状態としては非常に危険なおそれがあります。
いずれ早期に異変に気づいた時点で診察を受けていただいた方が病気の治療の効果は大きくなって
いきます。
欲を言えば見た目何の異常もなくても日頃の健康診断等で心音のチェックをしてみて雑音が聴取
されて年齢などを考慮したうえで心疾患の治療を開始するくらいでも早くはありません。
この時内服薬を使用しても使用前と何ら見た目は変わらないかもしれません。ただこれは長い目で
見てその子が更に年齢を経ていったときに心臓の劣化対策に貢献してくれるでしょう。
心臓病といっても様々な種類がありますがここではその中でも最も発症率の高い「僧帽弁閉鎖不全症」
について説明していきたいと思います。
心臓は(人もそうですが)4つの部屋に仕切られています。そのうち左側の上の部屋(左心房)と
下の部屋(左心室)の仕切りの弁が僧帽弁です。
通常この弁は左心房から左心室へ血液が流れる際に開いて左心室から大動脈へ血液を送るときには
閉じます。つまり血液の左心室から左心房への逆流を防いでいるのです。
そして大動脈から全身へ血液が酸素や栄養を含んで流れていくのです。
僧帽弁はその弁に腱の糸状のものが何本もついており、心室側から弁を吊る感じで左心房側に弁が
開かないようになっています。
高齢になってくるとこの弁を
吊っている腱が伸びてしまっ
たり、時には切れてしまっ
たりして、弁の閉じ具合が
緩くなってしまうことが
あります。
こうなると心室へ入った血液が
今から全身へ送られようと
大動脈へ非出されるときに、
僧帽弁からも血液が逆流して
心房側へ戻ってしまう現象が
起こります。この逆流が雑音
として聴取されるのです。
この現象が起こってくると今まで全身へ送られていた血液量が左心房へ逆流してしまうために、
十分量でなくなってしまいます。
そして逆流した血液は左心房でうっ滞し更には左心房へ血液を送っている肺にまでうっ滞が出る
こともあります。肺で血液がうっ滞した状態が続くと肺へ血液中の水分がにじんでいき、肺が水分を
過剰に含んだ状態になってしまいガス交換ができなくなってしまいます。これが肺水腫です。
このうっ滞の程度により胸(肺ではなく肺の周りです)やお腹に水がたまっていく症状も出てきます。
このように心臓に負担がかかってくると段階的に様々な症状が出てきてしまいます。
この症状の段階に合わせ内服薬を飲んでいくことが心臓病(ここでは僧帽弁閉鎖不全症ですが)の
治療となっていきます。ただ場合によっては即入院しての治療が必須となってしまうケースも少なく
ありません。そのときは通常の生活が出来るレベルに回復してからの内服薬治療となります。
ここで大切なのは一度閉じが緩くなってしまった弁、肥大してしまった心臓を元の状態に戻すことは
できません。雑音を消すことはできません。
しかし内服薬で心臓に負担がかかりにくくすることにより症状の進行を大きく減少させることは
できますし、それにより今まで体にかかっていたストレスをなくすことが可能です。
心臓は365日休むことなく働いている臓器ですから内服薬も日々の継続した投与が必要になって
きます。
そして高齢な子に起こりやすい病気ですので更に年を経ていくと今まで内服してきた薬の種類、
用量では症状を抑えきれなくなってくることもあります。これは季節の変化(特に寒くなってくると)
にもよることがあります。
そのときは適宜内服薬の再検討が必要になってくるでしょう。
こうして日々の管理というものが心臓のストレスの少ない環境をもたらしてくれるのです。
2013年 9月
※上記は当院の方針であり、他院と異なる場合があります。ご了承下さい。