「避妊、去勢手術ってしなければならないですか?」
よくこういった質問を受けることがあります。
動物も交配して子孫を残し今日に至って来たわけですから雄雌があり生殖器があって当然です。
それが本来の姿でしょう。
しなければいけないということは全くありません
ただし少々お話ししておきたいことはあります。
まず雌の場合ですが犬猫さんでは閉経というものが存在しません。つまり一生性周期というものが
やってきて性ホルモンが分泌されるのです。これが若いうちはいいのですが、年を経ていくことにより
性ホルモンの分泌のバランスが崩れてくることがあります。
このときホルモンの影響を受ける乳腺や子宮、卵巣などに異常が出てくる場合があります。
発情期に乳腺が張るということは良くあることですが、これがシコリとなると話が変わってきます。
乳腺の張りではなく腫瘤であって悪性の場合は「癌」となります。癌となればその後体自体に悪影響を
及ぼしていく可能性が出てきます。
また発情期には免疫系等が弱くなることがあり、更にこの時期子宮の内膜は増殖して厚くなり、
細菌感染が起こりやすくなります。その結果発情後1〜2ヶ月で子宮内に膿が溜まって具合が悪くなる
ということもあります。(子宮蓄膿症)
こうなると緊急で手術を行い卵巣、子宮を摘出する必要性がでてきます。
雄の場合は性ホルモンの影響により、前立腺の肥大や肛門の周りに腫瘍が出来てくる肛門周囲腺腫
などの病気が誘発されることがあります。
前立腺肥大は場合によっては炎症をきたしその後膿を溜めてしまい全身症状が悪化することもあります。
肛門周囲腺腫は大きくなっていくと皮膚が張りすぎて、ついには破けてしまうことも多々あります。
血行が多くあるところなので、じわじわと出血が続くということもあります。また肛門の付近ですので
便が付着し感染しやすいなどのリスクもでてきます。
また睾丸自体の異常として睾丸そのものが腫瘍化して肥大していってしまう病気もあります。
いずれ雌の場合も雄の場合でも高齢(7 才以上)で発症するケースが多いです。
しかも症状が出た場合、腫瘍等は摘出するのですが再発を防ぐためそれに併せて避妊手術、去勢手術を
行うことが必要になってきます。
そうなると当然全身麻酔下での手術になりますが、高齢であるがゆえに内臓疾患があって麻酔の
リスクも高くなってしまうという状況に陥らないとも限りません。
やはりこれらの病気にかかってしまった子の飼い主さんは「若いうちに手術しておけば良かったん
だね〜」とおっしゃる方が多いです。
今後ブリーディングを考えてらっしゃるのであれば別ですが、やはり若いうちに手術をしておくと
いうことはこういった病気を未然に防ぐという意味で重要な役割を占めていきますね。
デメリットとして避妊、去勢をしてからフードや生活環境は全く変化していないが太ってくると
いうのは良く聞きます。
これに関しては低カロリーのフードへの変更や運動の時間を増やすなどの対策が必要になってくる
でしょう。
ここまでお話ししてきた病気は、避妊去勢をしなかったからといって必ず発症してしまうものでは
ありません。かなりの高齢になっても発症せず元気な子も大勢いるのも事実です。
ただし単に可哀想だからという理由だけではなくこういった背景をよくふまえてお考えになって
いただければ幸いです。
2013年 9月
※上記は当院の方針であり、他院と異なる場合があります。ご了承下さい。